今回はダニエルに啓示された事柄を追っていきたいと思います。
ダニエルの預言はたいへんわかりやすいと言えるでしょう。それはひとつには、
繰り返し同じ事柄が別の象徴によって語られていること、ふたつめには、
ダニエル書自体に中で説き明かしがなされている事柄が多いこと、
そして3つめには、学校で学んできた世界史と符合するからでしょう。
とかくイスラエルの話だと聖書世界のことと思われがちでしょうが、
なじみのある歴史上の出来事や人物が登場します。
預言の成就が鮮明に記されているので、ある意味でたいへん痛快に思える預言書です。
聖書の記述は地理的にはエルサレムが基準です。例えばイエス様の時代に
ユダヤを支配していたローマ帝国は、BC27からですが、世界史に
いきなりローマ帝国が登場したかというともちろんそうではなく、
それ以前の王政ローマ(BC753〜509)、共和制ローマ(BC509〜27)を経て
皇帝が支配するローマ帝国が登場します。ちなみに共和制ローマの最後は
あのエジプト・プトレマイオス朝最後の女王クレオパトラ7世を愛人とした
独裁官ユリウス・カエサル(英語表記ジュリアス・シーザー)でした。
それはともかくなぜ聖書にはそれ以前のローマの記述がなく
いきなりローマ帝国が登場するかと言えば、
エルサレムを支配するようになったからですね。
そのように聖書の地理的基準はエルサレムです。
なぜならエルサレムは「偉大な王の都だから」
(マタイ5:35)です。そうイエス様が説明されています。
ダニエルが語った世界帝国言い換えれば、エルサレムを支配した帝国というのが
正しいと思います。残念ながら、神様に背を向け続けてきたイスラエルは
ついに神様のさばきを受け、異邦人の国の支配の下に置かれることになります(BC606〜)。
ダニエルはバビロンに捕囚されてからの70年間に、異邦人の地バビロンで、
またシュシャンで、エルサレムを取り巻く世界を支配する帝国を語ります。
具体的には、バビロニア帝国、ペルシャ帝国、ギリシャ(マケドニア)帝国、ローマ帝国、
そして復活するローマ帝国、(これは、前半と後半に分けられるでしょう)
そして最後に神の国のつごう5つ(あるいは7つと言うほうが適当でしょうか)
の国家とその支配者について預言します。
今私たちは、聖書全体から言えば教会時代、イスラエルを基準に言えば
異邦人の時代に生きています。けれどもときどきイスラエル、
エルサレムのニュースを聞くことがあります。
たいへん小さな国ですけれども今でも非常に大きな存在感を示しています。
ダニエルはバビロン捕囚という異邦人の時代に、
異邦人が支配する時代について預言しました。
BC603、バビロンの王ネブカデネザルの第2年(2:1)に、
神様はネブカデネザル王の夢を通して
「この後、何が起こるのか」(2:29)を
「大きな像」(2:31)をもって明らかにされました。
次はバビロニア帝国末期のBC541、バビロンの王ベルシャツァルの元年(7:1)に、
神様はダニエルの夢を通して、「四頭の大きな獣」
(7:3)によって4つの帝国、特にローマ帝国について詳しく明らかにされます。
さらに2年後のBC539、ベルシャツァル王の第3年(8:1)にダニエルの見た
「雄羊」(8:3)と
「雄やぎ」(8:5)の夢によって、
まもなく起こるであろう政変後の展開を明らかにされます。
それはペルシャ帝国とギリシャ帝国、そしてその分裂についてでした。
バビロニア帝国はペルシャの王クロスによって滅ぼされ、
メディア人ダリヨスが支配します。ダニエルは引き続きバビロンにおいて
ダリヨス王に仕えることになりますが、その元年(BC539 9:1)に、神様は
「あなたの民(イスラエル人)と
あなたの聖なる都(エルサレム)について」(9:24)の
「70週(490年間)」(9:24)を明らかにされました。
それはイエス・キリストの登場と十字架の明確な預言であり、
ローマ帝国の支配者が行なう行為を、復活するローマ帝国のことも含めて
明らかにされます。
続けてそのペルシャ帝国の王クロスの第3年(BC537 10:1)に、ペルシャ帝国、
ギリシャ帝国の王たちに触れ、その後ギリシャ帝国が4つに分裂したうちの、
エルサレムをはさんだ北のシリアと南のエジプトのBC168頃までのイスラエルを巻き込んだ
160年余りにも渡る争いが克明に預言されます(11章)。それはさらに
終末のときにまで及びます(12章)。
神様は異邦人の時代に、エルサレムを中心にして起こることを、
まるで後世の人が語るように,ダニエルにあらかじめ示されるのです。
ダニエルが示された預言をここまで啓示された順番に見てきました。
今度は預言された世界帝国を歴史の順に従って見てみましょう。
2章の「大きな像」では「金の頭」(2:38)、
7章の「四頭の大きな獣」では「獅子」(7:4)として、
ネブカデネザル王が象徴されています。神様から与えられた威厳があったからです(2:37)。
2章の「大きな像」では「銀の胸と腕」(2:39)、
7章の「四頭の大きな獣」では「熊」(7:5)、
そして8章では「雄羊」(8:3)と、
バビロニア帝国には威厳では劣るものの、たいへん強く、西、北、南に勢力を伸ばす(8:4)
ペルシャ帝国です。雄羊には「2本の角」(8:3)があります。
これは当初ペルシャ人の王クロスとメディア人の王ダリヨスによる
共同支配であったことを示しています。クロス王によってイスラエル人は
神殿再建命令を得ます(エズラ1:2〜4)が、クロス王はもっぱら外征に努め、
内政はダリヨス王が担当したので、ダニエルはダリヨス王に仕えました(6:1,2)。
クロス王の後、「三人の王がペルシャに起こ」
(11:2)った後、裕福な「第四の者」が
ギリシャに立ち向かう(11:2)とあります。これはクセルクセス1世のことで、
聖書ではアハシュエロス王(エズラ4:6)として知られている、
エステルをお妃とした王様です(エステル1:1)。歴史を調べると彼は、
第2次ペルシャ戦争でギリシャに侵入しますが、サラミスの海戦で敗北、撤退しています。
2章の「大きな像」では「青銅の腹ともも」(2:39)、
7章の「四頭の大きな獣」では「ひょう」(7:6)、
また8章では「雄やぎの著しく目だつ一本の角」(8:5)と、
さらにまた11章で「ひとりの勇敢な王」(11:3)
と象徴されているのは、「ギリシャの王」(8:21)
アレキサンダー大王のことです。彼はたいへんな勢いで西からやってきて(8:5)、
全土を治めるようになります(2:39)。
アレキサンダー大王に「四つの頭」(7:6)
と象徴されている4人の将軍がいましたが、アレキサンダー大王の突然の病死の後、
その子を殺し(11:4)、「大きな角が折れた。
そしてその代わりに、天の四方に向かって、著しく目だつ四本の角が生え出た」
(8:8)とあるように国は4つに分裂し、東のトラキヤをリシュマクス、
西のマケドニアをカサンドル、南のエジプトをプトレマイオス、
そして北のシリアをセレウカスが支配するようになります(8:22、11:4)。
そしてイスラエルをはさんでこの北の王(11:6他)のセレウカス朝シリアと
南の王(11:5他)のプトレマイオス朝エジプトが長年にわたり権謀術数を重ねます。
その戦いにしばしばエルサレムが巻き込まれることになります(11:5〜45)。
特に「一本の小さな角」(8:9)と表現されている
シリアの第8代アンティオカス4世エピファネスは、悪逆非道の王様で
あきれ果てるような破壊をします。彼はイスラエル人を殺し、エルサレムにある神殿を汚し、
いけにえをささげることを禁止し、神様がお嫌いになるようなものを
そこに据えるというたいへんな冒?に出ます(BC168 8:24,25、11:21~45)。
彼は終末の時代に登場する反キリストのひな形であると考えられています。
2章の「大きな像」では「鉄と粘土の足」(2:40,41)、
7章の「四頭の大きな獣」では「第四の獣」(7:7)と
表現されています。ここまでの帝国は「獅子」「熊」「ひょう」と動物によって
その性質を表してきましたが、この第4の帝国、ローマ帝国はあまりにも
「恐ろしく、ものすごく、非常に強」(7:7)いため、
この地上の動物によって表現することができなかったのでしょう。
「第四の獣」と記されました。
「エルサレムを再建せよ、との命令が出てから、
油そそがれた者」(9:25)イエス様がエルサレムに入城したのは、
この預言のとおり69×7=483年が過ぎた、イスラエルが
ローマ帝国の支配下にあったときでした。
「油そそがれた者(イエス様)は断たれ」(9:26)ます。
すなわち十字架にて殺されます。またローマ帝国によって
エルサレムと神殿が破壊されます(AD70 9:26)。
このローマ帝国は再び終末の時、1×7=7年の間、
「荒らす忌むべき者」が現われ、恐ろしく、
ものすごく、非常に強い力を示します。そして滅びます(9:26,27)。
この復活したローマ帝国は、黙示録では、
「海からの獣」(黙示録13:1)で、
「ひょう(ギリシャ)に似ており、
足は熊(ペルシャ)の足のようで、口はしし(バビロニア)の口のようであった」
(黙示録13:2)とあり、それまでの帝国のすべての特徴を備えている恐ろしく、
ものすごく、非常に強い力を示します。
この「海からの獣」には「十本の角」
(黙示録13:1)があります。これは2章の「大きな像」では「鉄と粘土の足」の
「足の指」(2:41)、
7章の「四頭の大きな獣」では「第四の獣」の「十本の角」
(7:7)に象徴される10ヶ国です。これがまず登場します。
その後さらに「もう一本の小さな角」
(7:8)が現われます。9章の荒らす忌むべき者と同じです。そして滅びます(7:11)。
ここまでが「異邦人の時」です。
「人手によらずに山から切り出され」
た一つの石(2:45)、すなわちイエス様によって、終わりになります。
この後、神様は「一つの国を起こされます」
(2:44)。「その御国は永遠の国」
(2:44,7:27)です。これが歴史のゴールです。
ダニエルの預言のとおりにローマ帝国まで成就してきました。
そしてこれから復活するローマ帝国以後キリストの王国の実現まで
歴史がつづられていくのです。
さて話は突然、後戻りしますが、なぜバビロニア帝国は滅亡したのでしょうか。
バビロンは周囲96kmを堅固な城壁で囲まれた難攻不落の城塞都市でした。
その城壁は実に厚さ27m、高さ100m、そしてなんと地下11mでした。
地面を掘っても進入できない構造です。さらに古代世界の七不思議に数えられる
「空中庭園」を築くほどに栄華を誇っていました。
そんなネブカデネザル王が築いた隙のない町バビロンがなぜ滅びたのでしょうか。
またバビロンは何の破壊もなくまるで禅譲されたように
バビロニア帝国からペルシャ帝国に引き継がれているのです。実に不思議です。
6代目の王様はナボニドスといいます。
お母さんはどうもアッシリアのハランの月神シンの女大祭司であったようです。
その影響でしょうか。ナボニドス王はバビロンの主神マルドォクの祭儀を行なわず、
ハランの月神殿エフルフルの再建など、月神シンの祭儀のみに熱心でした。
そのためバビロンのマルドォク神官たちの反発を買い、
彼らをしてペルシャ王クロスを迎え入れることになってしまったようです。
それが起きたのはちょうど、ナボニドスと共同支配をしていた息子
第7代のベルシャツァル王が宴会を催し、イスラエルの神に冒?を働いた夜でした。
その宴会のとき、人間の手の指が現われ、宮殿の壁に
「メネ、メネ、テケル、ウ・パルシン」
すなわち「ベルシャツァル王の治世は終わり、メディアとペルシャに与えられる」
と記されたときでした(5:1,3,5,26〜28)。そのペルシャのクロス王の侵入の様子は
これより150年ほど前のイザヤ(45:1,2)やエレミヤ(50,51章)によって
はっきり預言されています。それはまずバビロンの中央を流れるユーフラテス川の川底から
侵入し、内側からとびらを開いて軍隊が進入、
王や国家の中枢にいる者たちだけが討たれているのです。
このように、繁栄の絶頂にあっても、神様の定めのときが来れば、
実に人間の築き上げたものはもろいものであることを教えられます。
義人ダニエルは神様に愛され、これから起こることの啓示を受けました。
人が知りえないことを教えられたダニエルは喜んだでしょうか。
7章では、バビロニア帝国から永遠の御国まで、すべての時代の流れが啓示されました。
それを聞き終えたとき
「ダニエルはひどくおびえ、顔色が変わった」(7:28)
とあります。たいへん厳粛な気持ちになったのです。
そして「このことを心に留めていた」(7:28)
とあります。
今聖書を通して私たちは神様の永遠のご計画を知ることができます。
そればかりでなく、私たちの神の御前における罪とそのさばきについても教えられています。
これはたいへん厳粛なことです。心に留め、
神様の備えてくださっている救いの道を受け入れる、
そうしないではいられないのではないでしょうか。